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東京高等裁判所 昭和49年(ネ)486号 判決

控訴人 丸正織布株式会社

右代表者代表取締役 岩浪正治

控訴人 岩浪正治

右両名訴訟代理人弁護士 源光信

当事者参加人 調布農業協同組合

右代表者理事 岩浪清

右訴訟代理人弁護士 松沢宣泰

被控訴人(脱退) 飯野友吉

右訴訟代理人弁護士 星野行男

同 寺口真夫

主文

控訴人丸正織布株式会社は当事者参加人に対し原判決末尾添付第一物件目録記載の土地及び建物(但し、同目録三の土地及び九の建物を除く)を、控訴人岩浪正治は当事者参加人に対し同第二物件目録記載の土地及び建物を、それぞれ明渡せ。

訴訟費用は第一、二審とも控訴人らの負担とする。

事実

当事者参加人は「主文第一項と同旨及び参加により生じた訴訟費用は控訴人らの負担とする」との判決並びに仮執行の宣言を求め、控訴人らは「参加人の請求を棄却する」との判決を求めた。

当事者双方の事実上の陳述及び証拠の関係は、左記のとおり附加する外、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する(但し、原判決一四枚目裏六行目の「なお、」から同一〇行目の「申立てる」までを削除し、同三二枚目裏八行目の末尾に(「現況三二四番地所在」)を、同三三枚目表二行目の末尾に「(現況三二五番地一所在)」を、同六行目の末尾に「(現況三二五番地所在)」を、同一〇行目の末尾に「(現況三二七番地一所在)」を、同三四枚目表七行目の末尾に「(現況三二七番地一所在)」を、それぞれ加える)。

参加人は、参加の理由として、次のとおり述べた。

原判決末尾添付第一物件目録記載の土地及び建物(以下特にことわらない限り、同目録三の土地及び九の建物を除くその余の物件を単に本件第一物件という)並びに同第二物件目録記載の土地及び建物(以下単に本件第二物件という)はいずれももと脱退被控訴人の所有であって、右被控訴人は本件第一物件の占有者である控訴人丸正織布株式会社(以下単に控訴会社という)及び本件第二物件の占有者である控訴人岩浪に対し、それぞれ所有権に基き、右各物件の明渡を訴求していたが(東京地方裁判所八王子支部昭和四三年(ワ)第六九五号事件)、右第一審勝訴の判決言渡後である昭和四八年四月二五日参加人に対し本件第一、第二物件を売渡し、同日その旨の所有権移転登記手続も経由した(なお、脱退被控訴人の従前の主張はすべてこれを援用する)。よって、参加人は民事訴訟法第七三条により本件訴訟に参加し、所有権に基き、控訴会社に対しては本件第一物件の、控訴人岩浪に対しては本件第二物件の各明渡を求める。

控訴人らは、右参加人の主張につき、次のとおり述べた。

右主張事実中、控訴会社が本件第一物件を、控訴人岩浪が本件第二物件をそれぞれ占有していること及び脱退被控訴人が、所有権に基き、控訴会社に対し本件第一物件の、控訴人岩浪に対し本件第二物件の各明渡を訴求していたが、右第一審勝訴の判決言渡後である昭和四八年四月二五日参加人に対し本件第一、第二物件を譲渡し、同日その旨の所有権移転登記手続を経由したことは認めるも、その余は否認する。

本件第一、第二物件の右譲渡は、売買ではなく、譲渡担保権の移転である。即ち、脱退被控訴人は右同日、参加人に対し脱退被控訴人が控訴会社に対して有する貸金元本及び損害金債権をその担保権である本件第一、第二物件についての譲渡担保権と共に譲渡した。従って、控訴人らは右譲渡担保権の特定承継人である参加人に対しても、脱退被控訴人に対して主張した抗弁をすべて援用する。なお、本件口頭弁論終結時である昭和五一年五月二〇日現在における控訴会社の参加人に対する本件貸金債務は、元本及び損害金合計金四八三六万七六一四円であって、同日現在における本件第一、第二物件の価格を下廻るものであるから、その差額は当然、参加人が控訴人らに対し返還すべきものである。

参加人は、右控訴人らの主張につき、次のとおり述べた。

仮に脱退被控訴人から参加人に対する本件第一、第二物件の譲渡が控訴人ら主張のような譲渡担保権の移転であるとしても、本件口頭弁論終結当時における参加人の控訴会社に対する本件貸金債権は、少くとも元本、利息及び損害金合計五三三二万八三〇〇円以上であって、同日現在における本件第一、第二物件の価格を遙かに上廻るものであるから、参加人が控訴人らに対し返還すべき清算金は全くない。

被控訴人は、参加人及び控訴人らの同意を得て、本件訴訟から脱退した。

≪立証関係省略≫

理由

一  本件消費貸借契約及び譲渡担保契約について

脱退被控訴人の請求原因第一項のうち、同人が控訴会社に対し金員を貸付けた日、右貸付金額及び弁済期を除くその余の約定事実並びに脱退被控訴人が控訴人らに対する債権を担保するため、控訴会社から本件第一物件(但し、前記三の土地及び九の建物も含む)につき東京法務局青梅出張所昭和四一年一一月七日受付第七三二一号、控訴人岩浪から本件第二物件につき同出張所同日受付第七三二二号を以て、それぞれ所有権移転登記手続を受けたことは当事者間に争いがない。そして、以上の事実に、≪証拠省略≫を綜合すれば、次の事実が認められる。即ち、脱退被控訴人は昭和四一年九月当時、控訴会社に対し約束手形金債権金二八九万六二〇〇円を有していたところ、控訴人らから更に同会社の再建資金の貸付方を懇請されたので、これに応じ、巣鴨信用金庫から金一五〇〇万円の融資を受け、これを控訴会社に貸付けることにしたが、同金庫より脱退被控訴人所有名義の担保物件の提供を求められたので、控訴人らと合意のうえ、まず同人ら所有の不動産を担保のため譲受け、脱退被控訴人名義に所有権移転登記を経由して、これを右融資の担保に供し、しかる後、順次一五〇〇万円まで右貸付を実行することとしたこと。その結果、同年一〇月二五日、脱退被控訴人と控訴会社との間において、同被控訴人が控訴会社に対し金一五〇〇万円を、弁済期昭和四六年一〇月末日(但し、この点は、同四一年一〇月三一日、双方の合意により、同四二年五月から同四六年九月までは毎月末日限り各金二八万円、同四六年一〇月末日限り金一六万円の分割弁済に改められた)、利息金一〇〇円につき一日金二銭五厘で毎月末日払、遅延損害金一〇〇円につき一日金八銭二厘、控訴会社が二回以上利息を期限に支払わないときその他脱退被控訴人主張のような場合には、同会社は期限の利益を失い、なんら催告を要しないで直ちに元利金を支払うことの約定で、貸付ける旨の合意が成立し、同時に控訴人岩浪は脱退被控訴人に対し右貸金債務を保証し、控訴会社と連帯して債務履行の責に任ずることを約諾した外、同日控訴人らと脱退被控訴人間において、控訴会社がその所有にかゝる本件第一物件(但し、前記三の土地及び九の建物も含む)を、控訴人岩浪がその所有にかゝる本件第二物件を、それぞれ売買名義を以て同被控訴人に譲渡し、他方控訴人らは前示元本につき期限の利益を喪失しない期間内に限り、貸金元本金一五〇〇万円及び前示約定利息を支払って右第一、第二物件を取戻すこと並びに右各物件を無償で使用することができる旨の合意が成立し、右合意に基き、同年一一月七日前叙のように本件第一、第二物件につき脱退被控訴人のため所有権移転登記手続がなされたこと。そして、前示貸付の実行として、脱退被控訴人が控訴会社に対し、(一)まず同年一〇月二八日、金四五一万円を貸付け、同会社の承諾を得て、その内金三五〇万円を同会社の債権者野崎義治に対し、残金一〇一万円を同徐丙均に対しそれぞれ支払い、以て同会社と右両名との関係を清算し、(二)次いで同年一〇月三一日、金一〇〇万円を貸付け、控訴会社の承諾を得て、その内金四五万円を同会社関係の登記料、登録税及び星野行男弁護士の手数料の支払に充当したうえ、残金五五万円を同会社に交付し、(三)更に同年一一月一八日、金九四九万円を貸付け、控訴会社の承諾を得て、その内金二八九万六二〇〇円を脱退被控訴人の前示手形金債権の支払、内金一五〇万円を同被控訴人が巣鴨信用金庫から金一五〇〇万円を借受ける条件として同金庫より要求された同被控訴人名義の同金庫に対する定期預金一五〇万円の積立(従って、右定期預金は実質上、控訴会社の預金である)、内金三三万七五〇〇円を以上の貸金合計一五〇〇万円に対する同日から同四二年二月一三日までの前示約定利率による利息の支払、内金一二万一一七〇円を控訴会社関係の追加登記料及び印紙代の支払にそれぞれ充当した外、内金三〇万円を有福俊明に対し同人が控訴会社のため尽力したことによる謝礼として支払い、残額金四三三万五一三〇円を同会社に交付したことが認められ(る。)≪証拠判断省略≫

以上認定の事実によれば、脱退被控訴人は昭和四一年一〇月二五日、控訴人岩浪の連帯保証のもとに、控訴会社に対し金一五〇〇万円を前示弁済期、利息及び遅延損害金並びに過怠約款の定めで貸付ける旨約諾し、同年一一月一八日までに約定どおり金一五〇〇万円の貸付を終え、一方控訴人らは、同時に脱退被控訴人と右貸金債権を担保するため控訴人ら所有の本件第一物件(但し、前記三の土地及び九の建物も含む)及び第二物件につき譲渡担保契約を締結し、控訴人らが貸金元本につき期限の利益を喪失せず、前示最終弁済期までに元本及び約定利息を支払えば右第一、第二物件を取戻すことができるが、右弁済をしないときは取戻権を失い、脱退被控訴人は右各物件を自己の所有として売却又は処分し、右代金から優先弁済を受けることができる旨の合意のもとに、前示所有権移転登記を経由したものというべきである。

二  本件貸金債権及び譲渡担保権の移転について

脱退被控訴人が本訴第一審勝訴の判決言渡後である昭和四八年四月二五日、参加人に対し本件第一、第二物件を譲渡し、同日その旨の所有権移転登記手続を経由したことは当事者間に争いがない。そして、右事実に≪証拠省略≫を綜合すれば、脱退被控訴人は右同日、参加人に対し、同被控訴人が控訴人らに対して有する前示消費貸借契約及び保証契約上の債権をその担保権である本件第一、第二物件についての前示譲渡担保権と共に譲渡し、間もなく控訴人らにその旨通知したことが認められ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

三  そこで、控訴人らの抗弁について判断する。

まず暴利行為の抗弁について按ずるに、控訴人らは脱退被控訴人が控訴人らの窮状に乗じ本件第一物件(但し、前記三の土地及び九の建物も含む)及び第二物件を取得しようと画策したものである旨主張するが、本件全証拠によるもいまだこれを認めるに足らず、また本件貸金債権と右各物件の価額との均衡の点についても、前示消費貸借契約における五年間の元利合計は金二一八四万三七五〇円となるところ、≪証拠省略≫によれば、本件消費貸借契約及び譲渡担保契約のなされた昭和四一年一〇月二五日当時における右第一第二物件の価額は合計金三五三一万三〇〇〇円であったが、当時既に、右第一物件の三の土地及び九の建物には岩浪力造のための債権額金八〇〇万円の抵当権設定登記、また右第一物件の一、二及び第二物件の二の各土地には参加人のための元本極度額金三五〇万円の根抵当権設定登記が、それぞれ存し、勿論脱退被控訴人の前示譲渡担保権より先順位であったから、右第一第二物件の価額より岩浪力造及び参加人の元本債権額合計金一一五〇万円を控除すると金二三八一万三〇〇〇円となることが認められるので、本件貸金債権とこれを担保する右第一第二物件の実質的価額とが著しく均衡を失するものとは認められず、従って控訴人らの前記抗弁は採用できない。

次に弁済期未到来の抗弁について按ずるに、控訴人らが昭和四一年一一月一八日、脱退被控訴人に対し本件貸金一五〇〇万円に対する同日から同四二年二月一三日までの前示約定利率による利息として金三三万七五〇〇円を支払ったことは当事者間に争いがなく、≪証拠省略≫を綜合すれば、控訴人らは、脱退被控訴人に対し、更に本件貸金一五〇〇万円に対する前示約定利率による利息として、昭和四二年二月一三日、同月一四日から同年五月一三日までの分金三三万七五〇〇円を支払い、次いで同年五月一四日、同日から同年八月二六日までの分金三九万五二五〇円を支払ったこと(但し、右五月一四日控訴人らが脱退被控訴人に対し金三九万五二五〇円を支払ったことは当事者間に争いがない)が認められるが、同年七月一三日控訴人らと脱退被控訴人間において、控訴会社が同被控訴人名義で積立てた巣鴨信用金庫に対する定期預金一五〇万円を本件貸金一五〇〇万円の未払利息に充当する旨の合意が成立したこと及び右貸付の際、控訴人ら主張の条件付で脱退被控訴人が控訴会社に対し本件貸金一五〇〇万円とは別に金五〇〇万円を貸付ける旨約諾したとの控訴人ら主張の事実については、右主張に副う≪証拠省略≫は、≪証拠省略≫と対比し、たやすくこれを措信できず、他に右事実を認めるに足る的確な証拠がないから、結局、控訴人らの前記抗弁は採用できない。してみれば、控訴人らは昭和四二年八月二七日以降本件貸金一五〇〇万円の利息の支払を遅滞しているものというべく、従って前示過怠約款により同年一〇月末日の経過と共に右貸金債務につき前示期限の利益を喪失したものといわなければならない。

次に帰責事由不存在の抗弁について按ずるに、前述のとおり脱退被控訴人が控訴会社に対し別途金五〇〇万円を貸付ける旨約諾したことが認められないものである以上、右約定の存在を前提とする控訴人らの右抗弁もまた採用の限りでない。そうとすれば、参加人は前示消費貸借契約上の債権の満足を得るため、前示譲渡担保権を実行すること及びそのため債務者で且つ後記のように占有者である控訴人らに対し本件第一第二物件の明渡を求めることができるものというべきである。

そこで進んで、清算金の支払を前提とする同時履行の抗弁について按ずるに、前叙のとおり、脱退被控訴人は、控訴人らに対する貸金債権担保のため同人ら所有の本件第一物件(但し、前記三の土地及び九の建物も含む)及び第二物件につき譲渡担保契約を締結し、控訴人らが弁済期に債務を弁済すれば右第一第二物件は同人らに返還するが、弁済をしないときは右返還請求権を失うとの合意のもとに、自己のため所有権移転登記を経由し、次いで参加人は脱退被控訴人から右貸金債権及び譲渡担保権を譲受け、本件第一第二物件につき自己のため所有権移転登記を経由したものであるから、参加人が右譲渡担保権を実行する場合には、本件第一第二物件を換価処分し又はこれを適正に評価することによって具体化する同物件の価額から、自己の債権額を差引き、なお残額があるときは、これに相当する金銭を清算金として控訴人らに支払うことを要し、右担保目的実現の手段として控訴人らに対し本件第一第二物件の明渡を訴求した場合に、控訴人らが右清算金の支払と引換えにその履行をなすべき旨を主張したときは、特段の事情がない限り、参加人の右請求は、控訴人らへの清算金の支払と引換えにのみ認容されるべきものである(最高裁昭和四六年三月二五日第一小法廷判決、民集二五巻二号二〇八頁参照)。しかし、本件においては、次のような理由により、参加人が控訴人らに支払うべき清算金は存在しない。即ち、右清算金は当審口頭弁論終結時である昭和五一年五月二〇日現在における本件第一第二物件の時価(但し、実質的価額)から同日現在における参加人の有する債権額を差引いた残額であるところ、≪証拠省略≫によれば、昭和五〇年三月一五日現在における本件第一第二物件の時価は金五一七九万一〇〇〇円であることが認められ、その後当審口頭弁論終結当時においても右価額に変動はないものと推認されるが、前叙のとおり本件第一物件の一、二及び第二物件の二の各土地には本件譲渡担保権より先順位の元本極度額金三五〇万円の根抵当権設定登記が存在するから、少くとも右金三五〇万円はこれを差引くべきものであり、従って当審口頭弁論終結当時における本件第一第二物件の時価(実質的価額)は金四八二九万一〇〇〇円となるに対し、控訴人らは前叙のとおり昭和四二年八月二七日以降本件貸金一五〇〇万円に対する前示約定利息を支払わず、同年一〇月末日の経過と共に右貸金債務の弁済期が到来したものであるから、参加人の当審口頭弁論終結当時における本件貸金債権は、一応、元本金一五〇〇万円及びこれに対する昭和四二年八月二七日以降同年一〇月三一日までの前示約定利率日歩金二銭五厘の割合による利息金二四万七五〇〇円並びに昭和四二年一一月一日以降同五一年五月二〇日までの前示約定利率日歩金八銭二厘の割合による遅延損害金三八四二万五二〇〇円合計金五三六七万二七〇〇円となるが、前示本件第一物件の三の土地及び九の建物に設定された抵当権の実行により既に脱退被控訴人が金八一万五三一六円の配当を受領したことは参加人の自認するところであるから、これを右債権額から差引くと残額は金五二八五万七三八四円となり、結局、当審口頭弁論終結当時における本件第一第二物件の時価は同日現在における参加人の控訴人らに対する債権額を遙かに下廻るものというべきである。従って、参加人が控訴人らに支払うべき清算金の存在を前提とする控訴人らの前記抗弁は採用できない。

次に利息及び定期預金の返還並びに抵当権設定登記の抹消を前提とする同時履行の抗弁について按ずるに、控訴人らが脱退被控訴人に対し本件貸金一五〇〇万円に対する昭和四一年一一月一八日から同四二年八月二六日までの前示約定利息合計金一〇七万二五〇円を支払い、また控訴会社が同被控訴人名義で巣鴨信用金庫に対し金一五〇万円の定期預金をしていることは前叙のとおりであり、更に≪証拠省略≫を綜合すれば、控訴人岩浪は本件譲渡担保契約の外、更に前示消費貸借契約上の脱退被控訴人の債権を担保するため、同控訴人所有の原判決末尾添付第三物件目録記載の各土地につき東京法務局青梅出張所昭和四一年一〇月三一日受付第七二一〇号を以て債権額金三〇〇〇万円の抵当権設定登記を経由したことが認められ、一方、脱退被控訴人次いで参加人が、本件第一第二物件につき、それぞれ自己のため所有権移転登記を経由したことは前叙のとおりである。しかし、脱退被控訴人及び参加人が順次、本件第一第二物件につき右所有権移転登記を経由したのは、前示消費貸借契約上の同人らの債権を担保するためであって、右所有権移転登記により、直ちに又は債務不履行と同時に、流質又は代物弁済として、控訴人らの右消費貸借契約上の債務が、全部しかも始めに遡って、消滅するものではないことは、本件譲渡担保をめぐる前叙認定の経過に照らし明らかであるから、本件第一第二物件につき脱退被控訴人次いで参加人のため所有権移転登記がなされているからといって、控訴人らが既に弁済ずみの前記約定利息の返還を求めること及び控訴人岩浪が前示第三物件目録記載の土地についての抵当権設定登記の抹消を求めることは許されず(殊に後者については、右抵当権設定登記の債権者は脱退被控訴人であり、しかも参加人が同被控訴人から該抵当権の譲渡を受け、その旨の登記を経たことの主張立証は全然ないから、この点からも参加人に対し右抵当権設定登記の抹消を求めることは失当である)、また前記定期預金については、実質上の債権者である控訴会社が脱退被控訴人に対し、右預金を同控訴人名義に変更すること等により、その返還を求めることができることはいうまでもないが、同被控訴人の右定期預金返還義務と控訴人らの前示譲渡担保権の実行に因る本件第一第二物件の明渡義務とが一個の双務契約から生じたものと認めるに足る証拠がないのみならず、右各義務を以て同時履行の関係に立たしめなければ信義、公平に反するものと認めるに足る事情もない。従って、控訴人らの前記抗弁は採用できない。

更に不当利得金の返還又は清算金の支払を前提とする同時履行の抗弁について按ずるに、仮に本件第二物件の一の土地に控訴人ら主張の根抵当権が設定され、控訴会社が昭和四七年七月一四日までに右抵当債務の全額を支払ったとしても、本件譲渡担保契約は清算を必要とするものであること前叙のとおりであるから、該契約が流質型であることを前提とする控訴人ら主張の不当利得返還請求権は既にその前提において失当であり、また同人ら主張の清算金についても、当審口頭弁論終結当時における本件第一第二物件の時価算定の根拠となった当審における鑑定の結果においては、右各物件とも、すべて抵当権その他なんらの負担もないものとして評価しており、しかも右のような評価によってさえ清算金は生じないものであること前叙のとおりであるから、結局、参加人が控訴人らに対し不当利得金返還義務又は清算金支払義務を負うことを前提とする控訴人らの前記抗弁は採用できない。

四  ところで、控訴会社が本件第一物件を、控訴人岩浪が本件第二物件を、それぞれ占有していることは当事者間に争いがない。

してみれば、参加人は、本件譲渡担保権実行の手段として、控訴会社に対しては本件第一物件の、控訴人岩浪に対しては本件第二物件の、各明渡を求める権利を有するものというべきである(なお、参加人は、本件第一第二物件の所有権の取得が、単なる売買に因るものではなく、前示譲渡担保権の移転に因るものであるとすれば、予備的に、右譲渡担保権に基き、控訴人らに対し右各請求をするものであることは、本件弁論の全趣旨に照らし明らかである)。

五  よって、参加人の控訴人らに対する請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九五条、第八九条を各適用し、仮執行の宣言については、本件諸般の事情にかんがみ、これを付さないこととして、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 古川純一 岩佐善巳)

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